昭和初期から、70年余りを経て植生も変っており、蝶相も変化していると思われ、現在の蝶類を採集記録し、個体の比較調査を行った。
昭和初期は昭和5年(1930年)から昭和9年(1934年)迄の5年間、7月末から8月末にかけて、北軽井沢大学村周辺で採集した個体81種の採集記録である。また、平成期は平成15年(2003年)から平成19年(2007年)の5年間 5月から10月にかけて、北軽井沢大学村周辺・狩宿・万騎峠で採集した個体84種の採集記録である。尚、採集季節が異なる種については、表中に記載した。
「群馬県北軽井沢の蝶類」小林康邦(故人 大学村組合員)著、蝶類同好会機関紙ZEPHYRUS,Vol.6,1935(九州大学農学部昆虫学教室江崎悌三教授主催)に掲載されたもの。これを大学村便りNo.14,1988年にあらためて掲載されたものを参考にさせて頂いた。
「群馬県北軽井沢の蝶類」より抜粋群馬県北軽井沢は浅間山の東北麓、六里ケ原の東端に位し、海抜約1000米の地である。信州軽井沢から草津電鉄線が通じ、この線路の東側が法政大学村であり、北軽井沢の中でも法政大学村の範囲が好採集地である。村の東辺を熊川が深い渓を穿って貫流し、西岸は白樺、胡桃等の濶葉樹林でZephyrus属の棲息地である。高原上は概ね薄、萱類に蔽われアザミ類、アキノキリンソウ、カンゾウ等が咲き乱れ、ヒョウモンチョウ類が殊に多い。高原上の樹林は主に落葉松、白樺、楢、柏等である。昭和5年より昭和9年まで毎夏7月末から8月末までこの地に過ごしたので夏季の蝶相は大体知り得たと思う。
調査の結果、昭和期採集81種のうち、現在採集できたもの67種、未採集 2種、未確認12種。平成期に新たに採集できたものが18種、そのうち採集月が重ならない春先から初夏にかけての採集個体が5種となった。
昭和初期と現在の比較調査の結果、大学村周辺の環境の変化により、一部の種では著しく減少し、反対に増加している種が見られた。大学村周辺の環境は、昭和期草原で花が咲き乱れ、そこに疎らに樹林が生えていた推測され、現在は、栗、クヌギ、山桜、松等の背の高い樹木で蔽われた森となっている。減少した種の代表例は、草原の花にくるヒョウモンモドキ、コヒョウモンモドキ、ゴマシジミが減っている。増えた種としては、山桜などを食樹するメスアカミドリシジミ、本来亜熱帯種であるツマグロヒョウモンが温暖化の影響か採集されている。
科 名 | 和 名 | 昭和 | 平成 | 科 名 | 和 名 | 昭和 | 平成 | |||
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1 | アゲハチョウ科 | キアゲハ | ○ | ○ | 51 | タテハチョウ科 | イチモンジチョウ | ○ | ○ | |
2 | アゲハ | ○ | △ | 52 | コムラサキ | ○ | ○ | |||
3 | ミヤマカラスアゲハ | ○ | ○ | 53 | クモガタヒョウモン | × | ○ | |||
4 | カラスアゲハ | ○ | ○ | 54 | ヒオドシチョウ | × | ○ | |||
5 | ウスバシロチョウ | × | ● | 55 | ミスジチョウ | × | ○ | |||
6 | オナガアゲハ | × | ○ | 56 | ツマグロヒョウモン | × | ○ | |||
7 | シロチョウ科 | モンシロチョウ | ○ | ○ | 57 | テングチョウ科 | テングチョウ | ○ | ○ | |
8 | スジグロシロチョウ | ○ | ○ | 58 | シジミチョウ科 | トラフシジミ | ○ | ○ | ||
9 | ヤマキチョウ | ○ | ○ | 59 | ベニシジミ | ○ | ○ | |||
10 | スジボソヤマキチョウ | ○ | ○ | 60 | オオミドリシジミ | ○ | ○ | |||
11 | モンキチョウ | ○ | ○ | 61 | エゾミドリシジミ | ○ | ○ | |||
12 | ツマグロキチョウ | ○ | × | 62 | ミドリシジミ | ○ | ○ | |||
13 | キチョウ | ○ | ○ | 63 | メスアカミドリシジミ | ○ | ○ | |||
14 | エゾスジグロシロチョウ | × | ○ | 64 | ダイセンシジミ(ウラミスジシジミ) | ○ | ○ | |||
15 | ツマキチョウ | × | ● | 65 | オナガシジミ | ○ | △ | |||
16 | マダラチョウ科 | アサギマダラ | ○ | ○ | 66 | ミズイロオナガシジミ | ○ | ○ | ||
17 | ジャノメチョウ科 | ヒメウラナミジャノメ | ○ | ○ | 67 | アカシジミ | ○ | × | ||
18 | ジャノメチョウ | ○ | ○ | 68 | ムモンアカシジミ | ○ | ○ | |||
19 | ウラジャノメ | ○ | ○ | 69 | カラスシジミ | ○ | ○ | |||
20 | ヒカゲチョウ | ○ | ○ | 70 | クロシジミ | ○ | × | |||
21 | クロヒカゲ | ○ | ○ | 71 | ゴイシシジミ | ○ | ○ | |||
22 | クロヒカゲモドキ | ○ | × | 72 | ツバメシジミ | ○ | ○ | |||
23 | キマダラモドキ | ○ | ○ | 73 | ヒメシジミ | ○ | × | |||
24 | オオヒカゲ | ○ | ○ | 74 | アサマシジミ | ○ | ○ | |||
25 | ヤマキマダラヒカゲ | ○ | ○ | 75 | ウラゴマダラシジミ | ○ | ○ | |||
26 | ヒメジャノメ | ○ | ○ | 76 | ゴマシジミ | ○ | ○ | |||
27 | コジャノメ | ○ | × | 77 | ルリシジミ | ○ | ○ | |||
28 | ヒメキマダラヒカゲ | × | ○ | 78 | ヤマトシジミ | ○ | ○ | |||
29 | タテハチョウ科 | ヒョウモンモドキ | ○ | × | 79 | ムラサキシジミ | × | ○ | ||
30 | コヒョウモンモドキ | ○ | ○ | 80 | ハヤシミドリシジミ | × | ○ | |||
31 | ナミヒョウモン | ○ | ○ | 81 | コツバメ | × | ● | |||
32 | ギンボシヒョウモン | ○ | × | 82 | スギタニルリシジミ | × | ○ | |||
33 | ウラギンヒョウモン | ○ | ○ | 83 | アイノミドリシジミ | × | ○ | |||
34 | ウラギンスジヒョウモン | ○ | × | 84 | ウラキンシジミ | × | ○ | |||
35 | オオウラギンスジヒョウモン | ○ | ○ | 85 | セセリチョウ科 | ダイミョウセセリ | ○ | ○ | ||
36 | メスグロヒョウモン | ○ | ○ | 86 | チャマダラセセリ | ○ | × | |||
37 | ミドリヒョウモン | ○ | ○ | 87 | キバネセセリ | ○ | ○ | |||
38 | ヒメアカタテハ | ○ | ○ | 88 | ホシチャバネササリ | ○ | × | |||
39 | アカタテハ | ○ | ○ | 89 | スジグロチャバネセセリ | ○ | ○ | |||
40 | クジャクチョウ | ○ | ○ | 90 | ヘリグロチャバネセセリ | ○ | × | |||
41 | キベリタテハ | ○ | × | 91 | コキマダラセセリ | ○ | ○ | |||
42 | ルリタテハ | ○ | ○ | 92 | ヒメキマダラセセリ | ○ | ○ | |||
43 | エルタテハ | ○ | ○ | 93 | アカセセリ | ○ | ○ | |||
44 | キタテハ | ○ | ○ | 94 | イチモンジセセリ | ○ | ○ | |||
45 | シータテハ | ○ | ○ | 95 | オオチャバネセセリ | ○ | ○ | |||
46 | サカハチョウ | ○ | ○ | 96 | キマダラセセリ | ○ | ○ | |||
47 | フタスジチョウ | ○ | ○ | 97 | ミヤマセセリ | × | ● | |||
48 | コミスジ | ○ | ○ | 98 | ギンイチモンジセセリ | × | ● | |||
49 | ホシミスジ | ○ | ○ | 99 | コチャバネセセリ | × | ○ | |||
50 | オオミスジ | ○ | ○ |