「カルメン故郷に帰る」のスナップ。右が高峰秀子さん。左は共演者の小林トシ子さん。
〈「カルメン故郷に帰る」のスナップ。右が高峰秀子さん。
左は共演者の小林トシ子さん。〉
写真提供:浅間高原 御宿 地蔵川

『カルメン』がいた風景 きたかると映画 高峰秀子さんを悼む

 北軽井沢と映画といえば、一番にあがるのが、『カルメン故郷に帰る』。この主演を演じた女優、高峰秀子さんが昨年暮れ、28日に逝去されました。この『カルメン故郷に帰る』は、日本最初のカラー映画、当時の人気映画監督、木下恵介氏がメガホンをとり、人気女優、高峰秀子さんが主演ということで、日本映画史上でも、興行的にも大きな反響を巻き起こした映画でした。

 日本の映画史で、北軽井沢の地はターニングポイント(転換期)となる作品のロケ地として登場しています。本邦初のトーキー作品となった『マダムと女房』(昭和6年・1931年-監督/五所平之助、主演/渡辺篤、田中絹代)をはじめ、日独合作映画として注目を集めた『新しき土』(昭和12年・1937年-監督/アーノルド ファンク、伊丹万作、主演/原節子)、ちなみに、新しき土とは当時の満州をさした言葉です。

 昭和26年(1951年)には、北軽井沢大学村の岸田国士の原作『善魔』(監督/木下恵介、主演/淡島千景、千田是也)、この作品は日本の誇る名優、三國連太郎のデビュー作で、役名の三國連太郎が気に入り、それを芸名にしたといわれています。

 そして、昭和32年(1957)には『山鳩』(監督/丸山誠治、主演/森繁久弥、岡田茉莉子)という二大スターによる映画も撮影されました。映画の舞台となったのは旧草軽電気鉄道の「小瀬温泉」駅で、映画では『落葉松沢』駅として登場し、現在も字は違いますがバス停留所に「唐松沢」の名を残しています。

 しかし、何といっても約3ヶ月間の長期ロケを敢行した『カルメン故郷に帰る』こそが、北軽井沢の映画の代表作でしょう。この作品は、子供の頃に木から落ちて頭を打ち、少しおかしくなった田舎娘が、東京に行きストリップショーの人気者になって、ふるさとの村に帰ってきての騒動を描いた喜劇です。戦後の新しい時代の息吹を感じさせるような作品で、オールカラーの長編映画ということもあって、戦後復興期の熱気と明るい開放感に満たされています。

 この作品は、木下恵介監督が高峰秀子さんのために書き下ろしたものです。当時の若手人気女優がストリッパー役で登場するという大胆な演出、その演出に応える高峰秀子さん、北軽井沢の青い空とリリーたちの白い肌、原色のドレスが、日本初のカラー映画を大ヒットに導いた大きな理由でしょう。そしてエキストラに登場する当時の北軽井沢や千ヶ滝小学校の子供たちは、終戦後の農村風景、浅間山麓に暮らす人々の様子を映し出しています。木下恵介監督は『カルメン故郷に帰る』を含め、『わが恋せし乙女』、『破戒』、『善魔』の4作品を、この北軽井沢を中心とした浅間高原で撮影しました。

 高峰秀子さんは、映画『カルメン故郷に帰る』について、「私の長い俳優生活上のひとつのヤマ場になったけれど、個人的な意味でも、私の人生のヤマ場のひとつでもあった」と語っています(高峰秀子著「わたしの渡世日記」より)。この作品を契機に高峰さんは、新東宝の専属を離れて独立し、当時まだ珍しかったフリーランサーになり、以降木下恵介監督の多くの作品に出演しました。

草軽電鉄車両 1

草軽電鉄車両 2
〈撮影が行われた旧草軽電鉄北軽井沢駅〉
写真撮影・提供:黒岩 謙氏

浅間牧場 1

浅間牧場 2
〈ロケ地として使われた浅間牧場〉

北軽井沢映画年表

公開年 作品名 監督 出演者/特記事項 映画会社
1931
(昭和6年)
マダムと女房 五所平之助 ●主演/渡辺篤田中絹代、市川美津子ほか。
●日本初の本格的トーキー映画。
○吾妻駅(旧草軽電鉄)周辺?
松竹
1935
(昭和10年)
彼女は嫌いとひいました 島津保次郎 ●主演/斎藤達雄桑野通子高杉早苗日守新一ほか。
○旧草軽電鉄が登場する(デキ12型)?
松竹
1937
(昭和12年)
新しい土 アーノルド ファンク
伊丹万作
●主演/原節子小杉勇早川雪舟ほか。
●音楽/山田耕筰
●撮影協力/円谷英二(特撮映像?)。
●ファンク版、伊丹版の2本の映画が撮影された。一般的に流通しているのはファンク版。
○浅間山?
東和商事 映画部
1946
(昭和21年)
わが恋せし乙女 木下恵介 ●主演/井川邦子、東山千栄子原保美安部徹ほか。
○浅間牧場
松竹
1948
(昭和23年)
破戒 木下恵介 ●主演/池部良桂木洋子宇野重吉滝沢修ほか。
●1948年に安部豊(東宝)の手で映画化されかけたが、東宝争議で中断。これを引き継ぐ形で、木下恵介によって映画化された。
●島崎藤村の同名の小説が原作。
○主人公の出身地として描かれたか?
松竹
1951
(昭和26年)
カルメン故郷に帰る 木下恵介 ●主演/高峰秀子小林トシ子笠智衆佐野周二佐田啓二ほか。
●日本初の総天然色映画。
○北軽井沢駅(旧草軽電鉄)をはじめ、浅間牧場、軽井沢千ヶ滝小学校などを舞台に、約3ヶ月ものロケが行われた。
松竹
1951
(昭和26年)
善魔 木下恵介 ●主演/淡島千景、千田是也、森雅之三國連太郎ほか。
岸田国士原作の映画化。
●三國連太郎のデビュー作品。
○旧草軽電鉄、旧道駅?が登場する。
松竹
1951
(昭和26年)
あの丘越えて 瑞穂春海 ●主演/美空ひばり鶴田浩二、新田實、森川まさみほか。
●主演の美空ひばりの歌った主題歌も大ヒットした作品。
○主人公の育った場所として浅間牧場が登場する。
松竹
1951
(昭和26年)
高原の駅よさようなら 中川信夫 ●主演/水島道太郎香川京子柳永二郎、相馬千恵子、田崎潤、南條秋子ほか。
小畑實の歌が一世を風靡した映画。
●浅間高原を舞台に撮影された。
新東宝
1954
(昭和29年)
月よりの使者 田中重雄 ●主演/菅原謙二山本富士子船越英二若尾文子根上淳、沢村美智子ほか。
久米正雄の同名の小説を映画化した。
●「金色夜叉(1954)」に次ぐカラー総天然色作品。
○長野原小学校第3分校近くの分譲地内でロケを行っていた。
大映東京
1955
(昭和30年)
月がとっても青いから 森永健次郎 ●主演/南寿美子・中川晴彦、明美京子、坪内美詠子、フランキー堺ほか。
●日活の歌謡ロマンス映画で、菅原ツヅ子の歌う同名の歌謡曲は大流行。
○浅間牧場。
日活
1955
(昭和30年)
ここに泉あり 今井正 ●主演/小林圭樹岡田英次岸惠子成瀬昌彦加藤大介ほか。
●高崎市民オーケストラ(現:群馬交響楽団)がプロとして成立するまでを描いたもの。
○群馬交響楽団のメンバーが夏、旧草軽電鉄に乗って、山奥の村へ演奏旅行に行くシーンがある。
独立映画
松竹
1956
(昭和31年)
小林正樹 ●主演/佐分利信有馬稲子夏川静江佐田啓二、織田正雄ほか。
岸田国士の同名の小説を映画化した。
○原作そのものが北軽井沢を舞台にした作品か?
松竹
1957
(昭和32年)
山鳩 丸山誠治 ●主演/森繁久弥岡田茉莉子清川虹子左ト全千秋実東野英治郎ほか。
北条秀司の同名の戯曲を映画化した。
○ロケ地は、旧草軽電鉄『小瀬温泉』駅が中心だった。
東宝
1958
(昭和33年)
氷壁 増村保造 ●主演/菅原謙二山本富士子野添ひとみ川崎敬三上原謙ほか。
井上靖の同名の小説を映画化した。
○旧草軽電鉄北軽井沢駅周辺及び浅間山か?
大映

※2011年 2月 4日、「あの丘越えて」のデータを追加しました。
※2011年 2月 3日、「高原の駅よさようなら」のデータを追加しました。

*本原稿は、現在進行中のものです。ほかにも北軽井沢や旧草軽電鉄を取り上げた作品があると思います。 御存知の方、本原稿の誤りなどがございましたら、ぜひ下記まで御連絡をお願いいたします。

北軽井沢コンソーシアム事務局 佐藤 淳

★連絡先/お問合せ先: 北軽井沢コンソーシアム協議会事務局   佐藤 淳
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